2011年11月24日木曜日

韓流カルト映画の毒に痺れる

『下女 監督:キム・ギヨン/韓国/1960年


げじょ【下女】②炊事や雑事に召し使われる女性。はしため。女中。下婢。(広辞苑 第四版)












1960年に韓国で公開された映画。タイトルがストレートですごいです。下女という言葉、日本ではあまり使いませんよね。「お手伝いさん」とか「家政婦さん」などの言葉がしっくりきます。日本ではお手伝いさんも家族の一員で、家事を手伝ってくれる人、というイメージが強いですが、この映画を観ていると韓国における下女の扱いが相当ひどいもんだと分かります。言葉からして「下女」だもんなあ。


さて、あらすじをば。
工場の合唱部を指導するピアノ教師、トンシク。彼は妻を愛し、子どもたちを愛する男前。彼に恋する女工も数知れないが、決して浮気などしない。
真面目にこつこつ働いたのと、妻が内職で家計を手助けしたお陰で、念願の2階建てマイホームを手に入れる。ところが、長年の苦労がたたり、妻が倒れてしまう。広い家、家事を一人できりもりするのは大変だ。そこで、自宅によくピアノを習いにくる教え子に、家政婦を紹介するよう頼んだ。
ところがその教え子は、以前トンシクにラブレターを出したかどで停職にまで追い込まれた親友の仇をとろうとしていた。そこで、タバコを吸うくせのある新入りの女工をトンシク宅に差し向けるのだが……。


女性たちが感情をあらわにし過ぎていて、引きました。いや、映画の序盤にラブレターをピアノに入れた女工さんは、奥ゆかしくてかわいらしかったけども。その後に出てきた女性たちはトンシクに告白するも拒絶されると自分のブラウスを引きちぎり、「襲われそうになったって警察に言うわ!」とか、そういうのんばっかり。
あらすじには、親友の仇をとろうとしている教え子さんが差し向けた家政婦さん、となっていますが、差し向けたものの何をしようとしていたのか、謎。フィーリングで「まあ、家庭をしっちゃかめっちゃかにしてやろうとしたんだな」とは分かりますが、しかし家政婦さんにトンシクと一夜を共にせよとまでは言っていないだろうし、愛人の座にまでのぼりつめた家政婦さんに、紹介人の教え子さんが追い払われてるしなあ。何だったのだろうか。

しかし恐かった。家政婦さんが。
自分で誘惑しておきながら、「もう私は処女じゃないのよ」と責任をとれ的発言。しかもその一夜だけで家政婦さんは身ごもってもうたので、もう大変です。
良心の呵責やなんやかやで追いつめられたトンシクさん、思い切って奥さんに打ち明けます。奥さんはたとえあなたが強盗を働いても許すみたいなことを言っていたのに、いざ旦那から浮気相手を孕ませたと告白されると「そんな汚い体で私をだいてたの? 汚い! さわらないで!」 あっさり旦那を拒絶。それだけは許せないということでしょうか。
でも、さすが奥さん。家庭と子どもたちを守るため、家政婦さんに直談判します。
「いいわね、じゃあこうしてちょうだい」。家政婦さんに耳打ちし、同意を得た後で旦那と一緒に玄関の外に出る。中からガタガタガタン、物音と共に女の叫び声。中に入ってみると、家政婦さんが倒れている。2階から転げ落ちたのだ。
……何ですか、このドロドロした感じ。

そういうのが、ずっとずっと続きます。
ラストの、妻の元に行こうとする愛しいトンシクを、足下にすがりついて止めようとする家政婦さんのシーンはまぶたにこびりつきます。家政婦さんの、階段で仰向けになる死に方もすごい。これは今まで観た映画の中でもけっこうな名(迷?)シーンになるのではないかと思ったりして。

ところが、本当のラストシーンで度肝を抜かれました。こ、これはひどすぎる!
ネタバレを避けながらその感想を言いますと、ひどすぎるが、しかし場合によっては作品を別の角度から捉え直すことも可能だと思わされました。
つまり、この作品のすべてがトンシクの妄想かもしれない、ということ。
出だしの、「ピアノにラブレター事件」から妄想が始まっています。
女工さんたちにモテモテな俺、でも妻への愛をつらぬく俺、家政婦さんに言いよられて困る俺、でも家族への愛は変わらない俺、かっこいい! ……みたいな。
まあ、だからってラストのガッカリ度は下がりませんけども。

しかし、見ている間それなりにドキドキハラハラしましたし、昼ドラみたいで面白かった。
でも、私はやはり「感情をあらわにしないけど相当な恨みを抱いていて、こっそり復讐する地味な女」に恐怖を覚えます。例えば岩井志摩子の「密告箱」に出てくる、コレラ患者が出た家の側の川で、旦那のご飯用の水を汲む女とか。
この映画に出てくる女の人たちはぎゃあぎゃあ騒がしいですが、でも自分の感情にストレートで、同情できます。


(部員Z)














ピアノ教師と美人妻、その子供達の住まう家庭にやってきた家政婦さん。家長からは「ピアノには絶対触るな」ガキからは「(テレビを)お前には見せないぞ」等々言い放たれ、まさに“下げずまれる為の女”故に“下女”と呼ぶと言わんばかりに忌み嫌われておりますが…さて、そんな下女は持ち前の明るさと優しさでもって耐え抜き、鬼の様な家主達も徐々に心を許し、格差を越えて打ち解けて行く、云々…そんな小公女のよな映画では決してないのでご注意を。

物語、はしょってスジを紹介すれば、家長と下女、姦通し即妊娠、下女、階段から転げ落ちたり、子供を毒殺したりで、平和だった家庭がズブズブと崩壊に追いやられていく。(説明下手で済みません、部員Zのあらすじで十分でした。)暗黒ホームドラマとでも言いましょうか、見る角度を変えればホラーのようにもコメディーのようにも見て取れる、色々な視点で楽しめる懐の深い映画であります。

入ったばかりの台所でいきなりつまみ食い、戸棚を開いて出てきたネズミの尻尾を躊躇なくつまんだり、なんだかよく分からぬが舌をペロッとだす仕草も奇怪な下女ですが、その個性的なお顔立ち、見なれればなかなか可愛いらしく、貧相な肢体からは暗いエロスがにじみ出ております。禁断を犯す雨夜の濡れ場と服毒心中からの絡みが、ねっとりと脳裏に絡みつくように強く印象に残りました。

病原菌を運んできたドブネズミのごとき扱いの下女ですが、気がつけば、世間体ばかり気にしているピアノ教師と美人妻、生意気な子供達よりも「そんな中流もどき、地獄に陥れちまえ~」とすっかり其方を応援してしまいますね~。とにかく各所に、見所、つっこみ所、いっぱいあってなかなか飽きさせません。そして、そして、ラストで驚愕!今までのすべてを台無しにしてしまうこの締めくくり(部員Zと評価が分かれそうですが…)私的名画殿堂入り決定です!まったくもってこのいかがわしさ、たまらんです。

因みにDVD、邦盤は発売されていませんが韓国盤が入手可能。リージョンオールで日本語の字幕が付いておりありがたい。現存するフィルムはかなり劣化していたようですが、デジタル技術のなせる技、だいぶまともな画質にレストアされており現時点でこれ以上は望めない仕上がりと思えます。

(部員M)

2011年11月11日金曜日

部員各位

芸術の秋到来かと思いきや、ブルブル、トンと寒くなりやがったな。
各自、風邪をひかぬようご自愛を。

2011年11月4日金曜日